近年、界隈の偉い人が躍起になって追い求めはじめたDX(デジタルトランスフォーメーション)。バズワードでしかないのは誰の目にも明らかであるが、先月いきなりDXと名の付く部署・肩書に配置替えとなってしまったので、自分なりに考えたことを書き留めておく。
デジャブ
Web2.0とかこの手のバズワードは何度かあったと知っているが、私の短い社会人期間にも似たような定義があった気がするので、それらを思い出す。
インダストリー4.0
ドイツの政府機関とか業界団体とかなんちゃらアカデミー(要は産学官連携)で2011年くらいから提唱された言葉。ハノーファーメッセで広く告知されて、その後、欧州各国だけでなく全世界の様々な企業団体によって経営戦略として取り上げられる(バズる)。
概要や私なりの解釈を書くと
第4次産業革命がくるのであるという話
- 第1次:蒸気機関と鉄・繊維工業(19世紀後半)
- 第2次:電力と工場制機械工業(20世紀前半)
- 第3次:情報技術と電子工学(20世紀後半~21世紀)
新たな技術要素によって製造業の最適化がすすむ
- 相互運用性(IoTとか)
- 情報透明性(ビックデータ 、情報銀行とか)
- 技術的補助(AR による視覚補助、ロボットによる重労働補助など)
- 分散型決定(AIとか)
実際に投資状況が変化した。東ヨーロッパに工場を移転するという流れから、自国内工場の高度化という流れに。
ソサイエティー5.0
科学技術基本法が2016年に改正されたとき、内閣府の政府広報で打ち出されたキャッチコピー。残念ながらそんなにバズっていないが、 METIや政府機関系の戦略資料には頻出する。
以下、概要や私なりの解釈
新たな生産社会がくるのであるという話
- 1.0 :狩猟社会(先史時代)
- 2.0 :農耕社会(古代)
- 3.0 :工業社会(近代)
- 4.0 :情報社会(現代)
- 5.0 :超スマート社会 ←
いきなり意味不明
以下のような基盤整備をすることによって、
- データプラットフォームの確立、利用促進
- 知財の共有活用、利用促進
- 規格標準化
以下のような社会の自律的な最適化が進むはず。きっと。
- 大企業から中小製造業、農業事業者まで、世の中全ての生産事業者が、スマートに生み出す・手に入れる能力を得る。
- ソフトウェアの大衆化とハードの融合によって、人々の生活になじみ、スマートな生活へ。
まだ何も起きていないが、まずは標準化や相互利用のための法的基盤の整備、ルールの高度化から国が着手中。
で、DXとは何なのか?
正直、DXを語る人はみなポジショントークでしかない。SIerは顧客の古ぼけたシステム資産の刷新を薦めるし、クラウド事業者はクラウドを謳うし、事業会社のIRにはDXを冠した新規ビジネスが描かれる。エンジニア目線で見廻してみても、著名なベンダーですら「DX時代にバリバリ活躍するIT技術者になるにはコレ」だとか情報商材のごとく宣伝しまくってるので、踊らされない様に注意したい。
提唱者が明確で、割と輪郭を読み取ることができたインダストリー4.0やソサイエティー5.0をヒントに探るとしたら、きっとこの先(もしくは今が)人類史における生産社会の変革が起こるという共通項がポイントだろう。どうやら国家戦略や企業戦略を推進する人たちの中には、世界的にこんな予感が渦巻いているらしい。DXという言葉は、この一連のムーブメントを包括的に指し示す言葉になっている。
諦観
ただ、農耕をはじめた弥生人も、ジャガイモを南米から持ち帰ったスペイン人も、産業革命を進めたイギリス人も、それが人類の生産史を変える出来事だなんて意識していなかったはずだ。歴史的に振り返れば瞬発的な変革であっても、その時代を生きた人にとっては、それなりに長い年月をかけてジワジワ進むものである。
一方で、時代から取り残され脱落していった人(組織・国)がいるというのも事実だが、これは変革を知らなかったことが悪いのではなく、従来通りのやり方しかやらなかった(やれなかった)、変化を受け入れることを拒んだ人達だろう。
つまり、DXという変革の正体を真面目に探求するなんてのはナンセンスである。それよりも、世にある新しい事柄に取り組み・取り入れ・対応していくことが、せいぜい今を生きるエンジニアの私がDX時代から取り残されないためにできる精一杯なのだ。
なんてことを社内で宣ったら「それじゃあ今までと変わらんやんけ」「真面目にDXで何するか考えろ」と突っ込みを受けて悲しいので、もうちょっと続ける。