頭ん中

しがないITエンジニアが、考えた事を書きます。

キャッシュレス戦争を勝ち抜くのは誰か

なんとなく思いを馳せたので、書き留めていく。

キャッシュレスの今昔を振り返る

2001年のSuicaEdyのサービスインからほぼ20年が経ち、電子マネーという仕組みはすっかり当たり前になった。しかし、日本では未だに現金決済が主流で、政府主導のキャッシュレス推進が本格化している。それに加えて、各事業者による決済プラットフォームの覇権争いも相まって、世はまさにキャッシュレス戦国時代といったところ。

少し前までは、電子マネーと言えばSuica(をはじめとした交通系IC)、楽天EdynanacoWAON...といったFeliCaカードを使ったものが主流だったが、PayPay、LINE PayにオリガミやメルカリなどのQRコード決済が登場し、ここにきて戦局は一層不透明になりつつある。

ただ、よくよく考えてみると、そもそもキャッシュレスという仕組みは、新しいものでもなんでもない。クレジットカードは僕が生まれる前から存在するし、公共料金の銀行引き落としだってキャッシュレスの一種である。2000年代以降に電子マネーの仕組みが出来た裏側には、きっと相応の理由があるはずで、そこらへんを糸口にしながら、キャッシュレス戦争を勝ち抜くのは誰かを探っていく。

Suica誕生の背景と限界

やはり本命は、電子マネーの先駆けSuicaだろう。

  • 自動改札を通り抜ける一瞬で支払いを済ませたい。
  • 乗車駅によって金額が確定する。
  • 不特定多数の乗客が利用する。

このような電車の利用シーンをイメージすれば、それまでのクレジットカードではとても対応できないと分かる。利用者にデポジットFeliCaカードを配布し、お金をチャージして、改札でカードをタッチするというSuicaのような仕組みが必要だった訳だ。

ただ、SuicaをはじめとしたFeliCa型の電子マネーは、優れた技術方式なのは間違いないけれど、小売の現場で普遍的に利用する支払方式としてはいささかオーバースペックすぎた。カード読取り機器に、カードの1枚1枚のコスト、またFeliCaの規格自体の管理コストもあるはずで、どうしても大がかりなシステムにならざるを得ない。

私の地元の家族や知人にTOICAを持ってるか聞いたところ、誰もいなかった。東京・大阪の人間にとってSuicaICOCA)は必要不可欠な決済インフラになっているが、地方ではそうでもないようだ。都市部ほど公共交通機関を使わないし、決済基盤に大がかりな投資ができる事業者が少ないことも要因かもしれない。

コストという点についてはQRコード決済に分がある。ここ最近の〇〇ペイの爆発的な普及は、これまで電子マネーのプラットフォームがFeliCaに依存しすぎていたことの反動だろう。

ということで、Suicaがキャッシュレス戦争の覇者というのは早計と思われる。

クレジット不信と巻き返し

特に私の親世代くらいには、クレジットカードに対して嫌悪感を抱く層が、今でも一定数存在する。90年代、時代遅れの磁気カードに、クレジット業界のセキュリティ対策が後手になるなどで、スキミング犯罪が蔓延して社会問題となったことが原因と思われる。もしかすると、2000年代に前払式の電子マネーが登場・普及した背景には、このクレジット不信があるのかもしれない。

このような反省もあって、クレジットカード業界でも対応は進んでいる。EVM仕様の普及に、Visa TouchやQUICK Pay等の非接触式の新たな手段も出てきた。そういえばキャッシュカードにデビット機能が付き出したのも2000年代以降である。

勝者の論理

90年代に覇権を取れなかったクレジットカードや、流星のごとく駆け抜けて消えた7Payのように、利用者に嫌われた仕組みは生き残ることができない。逆説的に、最もユーザーフレンドリーな仕組みが勝者になるはずだ。

キャッシュレス決済の方式整理

やはり消費者が最も気にするのは以下のような支払タイミングだと思われる。

  • 前払い(プリペイド):法的には払戻しが可能かどうかで「前払式支払手段」と「資金移動業」に区別されるが、細かくなるので割愛。「Suica」や「LINE Pay」等ほとんどはこの方式。
  • 即時払い(デビット):「Origami」や銀行のやってる「ハマPay」など。
  • 後払い(クレジット):クレジットカードや「QUICK Pay」など。公共料金の引き落としも実はこれか。

このほかに媒体や認証方式などの違いもあり、その組み合わせを考えると、キャッシュレス方式って無数にあると改めて感じる。しかし、それぞれメリット・デメリットがあり、方式の優劣だけで勝者を予想するのは無理がある。

顧客が本当に必要だったもの

消費者は疲れるはずだ。乱立するキャッシュレス決済という名の財布の管理に、ポイントキャンペーンを追いかけ、頻繁にチャージし、もしくはクレジットカードを登録してオートチャージの設定をする…。立ち返って、キャッシュレスにおける「顧客が本当に必要だったもの」は何だったのか。

政府がキャッシュレスを推進する理由は、METIのサイト1を漁ると出てくるが、端的に言うと生産性向上して国力を強化しようという話。生産性向上を噛み砕いて考えれば、結局のところ、消費者・事業者ともに「楽したい」という、ただそれだけのことだ。

勝ち残るのは…

プリペイドは嫌いだ

小学生の頃だったか、近所のガソリンスタンドで3万円プリペイドカード(レギュラー4万円分付き)というキャンペーンをやっていたことがあった。それを見た親父はホクホク顔でプリペイドカードを買ったが、その翌週、そのガソリンスタンドは夜逃げ同然に潰れたのであった……。

資金決済法で一定の保証はされるものの、「前払い」というのは元来が事業者に優位な仕組みであって、消費者にとってのメリットなんてない(と思う)。Suicaの説明で書いたように、本来は電車の乗客のようなシーンだから「前払い」の意味があって、匿名でキャッシュレス決済をさせてもらうために、仕方なくお金を事業者に預けているのである。

巷のサービスを見渡すとどうだろうか。会員サイトで個人情報を登録し、オートチャージするためにクレジットカードまで登録している。それでも「前払い」することに、何の意味があるのだろうか。

信用の拠り所

すべての売買取引の根底にあるのは信用である。消費者の信用の拠り所は、銀行口座(給与振込口座)であり、そしてその能力を表すのがクレジットカードだ。これは昔からそうだし、今後もまず変わらない。

この点を踏まえて今までの流れをやや強引に振り返ると、

  1. その辺で買い物する時にまさか自分の銀行口座を教える訳にはいかないので、それをラッピングする媒体であるクレジットカードを提示することによって、自身の信用度を示す。
  2. 教えてもいいよって時は、銀行口座を教えてるはずだ。公共料金の口座振替とか。
  3. しかし、そのクレジットカードのセキュリティがポンコツで、持ち歩いたり小売事業者に見せるのが憚られるため、さらにそれをラッピングした電子マネーを使う。
  4. もしくは信用度を示すことを諦めて、仕方なく現金で支払うのである。

生産性向上というMETIの掲げる崇高な目的を達成するため、今後はそんな多層化された金流が簡略化されて、すっきりした仕組みになっていくと思う。

ということで、個人的な結論は、根っこに最も近いところ、簡単に信用を示すだけで売買成立する仕組み、つまりクレジットカード(をベースにした更にセキュアな支払手段)が勝者になるのではないかと。まあ、私がプリペイド嫌いなだけかもしれませんが。親父のやり切れない顔を思い出しながら。

でもやっぱりわかんないよね

電子マネー(ただし「前払い」の財布の中でも「資金移動業」だけ)での給与振込が解禁されるというニュース2は、先に述べた消費者の信用の拠り所が銀行口座への給与振込であるという既成事実を覆す可能性を秘めた、結構大事な出来事なのかもしれない。

CICみたいなクレジット業界の関係機関が握っているであろう、消費者の信用情報の台帳管理も、時代と一緒に変化するはずで、きっとそこにはブロックチェーンなんかが絡むんだろう、と思うけど、もはや僕の頭じゃよくわかっていない。3


  • [2019.12.11 更新] 箇条書きだったものを推敲して文章化